祖母が亡くなってからも祖母の携帯電話の番号を消せずにいた。
スマホのアドレス帳をめくる時、
祖母の名前が見えると、なんとなく祖母に会えたような気がするから。
ある晩の仕事帰り。私は少し酒を飲み過ぎた。
祖母の携帯電話の番号を今は誰が使っているのだろう?
酔った勢いで祖母の電話番号にかけてみる。
呼び出し音が1回、2回、3回…
やっぱり、こんなことやめようか?
そう思った瞬間、
「もしもし」と声がする。
祖母の声によく似た声だ。
「もしもし」と私が言うと、
「ああ。順ちゃんかい」と祖母ではないか!
私は久しぶりに聞く祖母の声が嬉しく、
祖母と会えなくなってから自分に起こったことを細々話した。
心配性の私に祖母はいつも「大丈夫」と言ってくれた。
そして、いつもそうだったように私の健康を気遣って、
「もう遅いから寝り」と言って電話を切った。
私は3年ぶりに祖母の元気な声と笑い声を聞いて嬉しかった。
電話をかける前なにか悩んでいた気がするが、
それがなんであったかは忘れていた。
とにかく祖母は生きている。
明日は休みだし、祖母に会いに行こうと思って
スマホを握りしめながら眠りに落ちた。
東向きの窓から差し込む朝の光で私は目が覚めた。
私はスマホを握りしめて寝ていた。
昨日のことは本当のことだろうか。
私は着信履歴をチェックしようとスマホを立ち上げる。
しかし、私が握りしめていたのは石ころだった。
私はスマホを探した。
それはローテーブルの上にあった。
着信履歴に祖母の名前はなかった。
↓気に入ったら応援クリックお願いします。