六畳一間

ボーイッシュなレズは彼女を作るのが大変だ

キジトラがいた日々1

 

忘れてしまいそうな彼女との日々を書きつけておきたい。
そう思っていたけど、12年も一緒にいたのに意外と書くことがない。
たぶんどの日も同じような日々だったからなのだと思う。
友達にそう話したら「みゅうがいた頃の話も書いたら?」と言う。

捨てられていた子猫


みゅうは彼女が飼っていた雌のキジトラだ。
みゅうは彼女に似て気の強い女の子だった。
荷物を届けにきたヤマトさんに飛びかかったこともある。
それ以来、荷物の受け渡しの間、彼女はみゅうをトイレに閉じ込めていた。

みゅうは私と彼女が出会う18年前の夏、彼女に保護された。
炎天下のなか、段ボールに入った5匹のキジトラが捨てられていた。
当時の彼女の同僚が段ボールを拾った。
雌のみゅうと雄の子以外は死んでいた。
助けてあげてと彼女は同僚に言われた。
猫を飼ったことがある彼女は、かわいそうで断れなかった。
ただ2匹も引き取ることはできない。
仕方なく小さい方を選んだ。それがみゅうだ。
子猫から猫を育てたことのある彼女は、
小さな哺乳瓶でみゅうを育てた。
彼女の部屋でみゅうはすくすく育った。

彼女は東京のアパートをいくつか引っ越した。
本当は動物を飼うことのできない部屋でこっそり。
きっと私の知らない男のひとと一緒に住んでいた。
みゅうは彼女についていった。
みゅうは彼女以外の誰にも懐かなかった。

みゅうと私の出会い


私が初めて彼女の部屋を訪れたら、なんとみゅうは私の匂いを嗅ぎに寄ってきた。
みゅうは人が嫌いだと聞いていた私は、彼女の部屋に入るのにかなり緊張していた。
それが向こうから寄ってくるではないか!
まるで私が彼女にとって大事なひとだとわかったかのようだ。
予想外の展開に私と彼女は目を合わせた。
「はじめまして」と私が言った次の瞬間、みゅうはシャーと言った。
「勘違いするにゃ!」と。
彼女と私はみゅうの対応に笑った。
「高飛車な女なの」と彼女が言うので、また笑った。
みゅうのしっぽは短く丸まっていた。
私はそういうしっぽを初めて見た。
「かぎしっぽ」と彼女が教えてくれた。
それから数日後、私は彼女の家に住みはじめた。
みゅうは私に興味があるようだった。
知らんぷりをしているけど、明らかに私のことを気にかけている。
しかし、だからと言って私からみゅうに近づいていいわけではない。
馴れ馴れしいのはダメである。
当時私は具合が悪くて1日中家にいた。
彼女のベッドで寝ていると、足元にみゅうが丸まっていることが増えた。
こんな蒸し暑い季節なのに足元に来るみゅうがかわいい。
そのうち、近づいてもシャーと言わなくなり。
いつの間にか私はみゅうに触れることができるようになっていた。
やがて、私が具合の悪い日は私の胸元に丸まって寝るようになった。
彼女とみゅうが一緒にいた時間に追いつきたいかのように、
私は毎日みゅうと一緒の時間を過ごした。
みゅうは爪を切らせてくれない。
毎回、切るとなると私と彼女がみゅうに虐待しているような声を上げる。
気が強いのに怖がりなみゅうだった。
爪が長いから歩くとツカツカ、ツカツカ床が鳴る。
私は眠れない夜が多かったけれど、
みゅうのツカツカ、ツカツカ歩く音を聴くとほっとした。

3人家族


私と彼女がテーブルを囲んで夕ごはんを食べるとき、
みゅうはテーブルの向いのベッドに座る。
そうするとちょうど私たち2人+1匹が向かい合っている感じになる。
みゅうは私たちと一緒に過ごしたいのだ。
私たちは3人家族だった。
そんなに長いこと一緒に3人でいられないのだけれど、
短い時間だけれど私は彼女とみゅうと私の3人の時間を忘れることはできない。
きっと彼女の胸のなかにも、3人で過ごした時間がしまわれているはず。
シングルベッドに小柄な女性が2人と猫1匹。
不思議とせま苦しいと思うことがなかった。
私たちがセックスするとベッドが揺れて、みゅうが怒った。
その度、彼女と私は笑った。
好きなひとと一緒に暮らすのが、こんなに楽しいものだと知らなかった。
30歳の私は健康も仕事もお金もないけれど、しあわせいっぱいだった。
私は最初のこの1年だけでも彼女とつき合った意味があったと思う。
意味?そんな言葉では説明できない。

 

↓気に入ったら応援クリックお願いします。

にほんブログ村 セクマイ・嗜好ブログ 同性愛・ビアン(ノンアダルト)へ
にほんブログ村